予期したより早い栄冠

 第104回全国高等学校野球選手権大会において、仙台育英高校が初優勝を果たした。

 宮城県初、東北勢初の優勝ということで、例年以上に祝福ムードとなっている。

 大阪桐蔭智弁和歌山などの、ある程度優勝が予想されていた学校が優勝していれば、同じような状況にはなっていないだろう。やはり、「初」というのはインパクトが大きい。

 

 さて、仙台育英の優勝にあたって、須江監督に関する記事も多く見るようになった。指導方針や育成方法に書かれたものが多く、併せて、優勝監督インタビューも話題になっている。記事に対するコメントも見ていても、概ね好意的なものが多く、批判はさほど見当たらない。須江監督の人間性や指導方針を評価するものが多い。

 

 須江監督は、現在監督就任5年目である。監督就任から5年で甲子園制覇というのは、長い甲子園の歴史の中でもそんなにいないのではなかろうかと思う。おそらく、須江監督自身も、甲子園制覇という目標はあったと思うが、こんなに早く達成できるとは思ってはいなかっただろう。

 僕は以前の記事において、仙台育英の今後の躍進を書いていた。

 

raskolnikov.hatenablog.com

 

raskolnikov.hatenablog.com

 

 須江監督は、仙台育英高校の監督に就任する前、中等部の監督をしており、中学野球の世界においても見事全国制覇を果たした。僕は須江監督が中学の指導をしているときから、着実に結果を残す須江監督の指導方法に注目しており、高校の監督に就任したとき、数年後には甲子園制覇を成し遂げるだろうと思っていた。ただ、こんなに早いとはさすがに思っていなかった。

 

 ところで、甲子園大会のような短期のトーナメント戦においては、普段の実力どおりの結果とならないことが多い。僕自身の経験からもそう思うが、短期のトーナメント戦を勝ち抜くには、勿論ある程度のチーム力も必要であるが、それ以上に必要なのは、「勢い」である。「勢い」は実力を上回る。そして、「勢い」の源泉はチームが一丸となっているかである。「この監督のもとで、この仲間たちと戦いたい」ー選手たちがそう思っていることが「勢い」につながる。つまり、逆に言えば、いくら実力があっても、監督が信頼されていなかったり、選手がまとまっていなければ良い結果は生まれない。野球に限らず、集団とはそのようなものである。だからこそ、チームづくりにおいて、技術指導に加え、選手に一体感を持たせることが大切なのである。

 そうは言っても、これがなかなか難しい。監督と選手の相性もあるし、選手同士の相性もあるので、毎年同じような雰囲気のチームを作るのはほぼ不可能に近い。「今年の雰囲気は良かった」、「昨年の方が良かった」などの声を聞くことがあるのも当然だ。仙台育英が今年栄冠を手にしたのも、チームの雰囲気が良かったことも推測されるし、それに、大阪桐蔭智弁和歌山などの強豪校が敗退したのも大きいと思う。大きな結果を成し遂げられるときというのは、実力の他、運も味方をしてくれるものだ。いろいろなことが重なり、大きな結果が出たのだろう。そして勿論、須江監督自身が、自分のやり方がいつか必ず成功することを信じ、地道に努力を続けてきたことが何より大きい要因だろう。

 

 野球に限らず、年代に限らず、スポーツは、いや、組織の成長は全てリーダーの資質にかかっている。謙虚な姿勢であらゆるものから学び取り、地道な努力を続け、時には大胆な判断により周囲を動かすーそのようなリーダーがいれば、その組織は素晴らしい集団になる。須江監督はまさにそのような人だと思う。自身の高校時代はレギュラーでなく、学生コーチだったことが須江監督の指導の原点だったことも多くの記事で書かれている。人生の逆境のバネにした成功例である。人生、良いときもあれば、悪いときもある。悪いときは苦しみに耐え、いつか花が開くと信じ、地道に努力を重ねていかなければならないときもある。それを教えてくれた今回の快挙だった。

 

 須江監督、仙台育英高校の選手並びに関係者の方々、宮城県の皆さん、東北地方の方々、本当におめでとうございます。