初めての大河ドラマ「いだてん」

 震度6弱地震から3日が経過したが、今のところ大きな揺れはない。このままないことを願う。
 震度6弱を記録したのは、熊本県玉名郡和水町である。今日からこの和水町は、違った意味で注目を集めるかもしれない。NHKの新しい大河ドラマ「いだてん」の主人公の一人、金栗四三は現在の和水町の出身だからである。

 

 僕はこれまで大河ドラマを一度も見たことがない。特定の人物に光を照射させた歴史ドラマというのは、その人物を中心に描かれたもの、あるいはその人物から見た歴史の見方であり、歴史の見方や考え方が狭まってしまうのではないかと思っていたからである。僕は史料をもとに、可能な限り客観的な視点から歴史を記した実証的な歴史学の本を読むのが好きだ。

 

 ではなぜ、「いだてん」を見ようと思ったか。理由はいくつかある。まず、主人公の一人である金栗四三熊本県生まれであること。次に、金栗四三の名を冠したマラソン大会に11月に出場したこと。そして、前述のような尖った考え方を近頃しなくなり、いろいろなものを見たり読んだりすればいいじゃないかと思えてきたことである。

 

 さて、ドラマの感想はと言うと、非常にスピード感のある流れで、最初はついていくのに必死だった。明治と昭和を行ったり来たりするため、その時代を確認しながら、また、当時の時代背景なども想像しながら見ていた。中でも印象的だったのは、日本がオリンピックに参加するために嘉納治五郎が奔走していたことである(もっとも第一話はこのテーマだけだが)。「嘉納治五郎」と聞けば「柔道」ということしか知らなかったため、日本のオリンピック参加に尽力した人物であることは意外だった。
 今では、世界の多くの国がオリンピックに参加することは当たり前になっているが、当時は白人のみしか参加できず、そして、参加したところで、体格で劣る日本人に勝ち目は全くないと思われていた。まさに、明治の頃の国際社会の価値観だなと思った。作中でも、義和団事件の写真が使われていたが、日露戦争の頃には「ロシアという巨人に向かう小柄な日本人」みたいな風刺画も描かれ、歴史の教科書に掲載されている。当時の日本なんて、白人世界(ヨーロッパ世界)から見れば、極東の二等国以下だった。その価値観を変えたのが言うまでもなく、日露戦争である。日露戦争の勝利によって、日本に対する国際社会の見方が変わった。この時代に、白人中心に開催されていたオリンピックに日本が招待されるのは自然な流れだ。近代国家になるということは政治の面だけでなく、スポーツの面でも環境が変わるものなんだなと思った。

 

 第一話の主人公は金栗四三ではなく、紛れもなく嘉納治五郎だが、嘉納治五郎の情熱には感嘆する他なかった。日本がオリンピックに参加することなんて、どう考えても無理だ、おかしいということが常識である時代、周囲の反対を押し切り、自分の信念を貫き通そうとする姿には大変感動した。このような人物が社会を、歴史を変えていくのだなと思った。多くの人は、情熱は持っていても、その時代に当たり前でないことをしようとすると周囲に止められ、やがては挫折する。挫折しなかった人がその時代の価値観を変えてきたのであり、偉大な功績を残してきた人物である。僕には到底できるもんじゃないと思う。

 

 次回から金栗四三が中心の話になるらしい。熊本の風景もおそらく出てくるだろうから楽しみである。そして、このドラマが好評を博し、熊本が、玉名が注目されていくことを願う。